1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:04:35.57 ID:V7EyQybuP

ほむら「最初のお話は「裸の王様」よ」

まどか「はじまりはじまり!」



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:08:38.49 ID:V7EyQybuP
むかしむかし、あるところにおしゃれな服が好きな王様がおりました。

王様は長い黒髪の可愛らしい女の子なので、正しくは女王様ですが、便宜上、王様と呼びます。
王様はいつも服を買い替えては、新しい服を着て、国民に見せつけるのでした。

ある日のこと、王様は言いました。

ほむら「いろいろ贅沢な服を着てきたけれど飽きてしまったわ。
何かもっと珍しい服はないかしら」

そこへ、旅の商人が王様のところを訪れて言いました。

商人「王様、あなたは色々な洋服を求めていると伺いました。
どうでしょう。私たちが誰も見たこともない珍しい洋服を作りましょう」

ほむら「どんな服なの?」

商人「それは素晴らしい色合いで、しかも、軽くて重さも感じない、
そして賢い者には見えるのですが、バカには見えない衣装なのです」


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:10:01.97 ID:V7EyQybuP
ほむら(そんな服本当にあるのかしら。
でも見たことも聞いたこともないのは確かだし、面白そうだから作らせてみよう)

ほむら「いいわ、お金は出してあげるから作ってみなさい」

商人「ははっ、それでは一か月ほど時間を下さいませ」

商人は、高額の報酬を要求し、一か月後に服を持ってくることを約束して去っていきました。


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:10:54.66 ID:V7EyQybuP
一か月後、商人は再び王様のお城を訪れました。

商人「こちらでございます。
どうでしょう。この素晴らしい色合い、サイズもぴったりです」

ほむら(……何も見えない。わたしはバカってことなのかしら。
それとも、もしかして騙されてる?)

王様は家来を呼びました。

さやか「お呼びですか、王様?」

ほむら「この商人が何か持っているのが見える?」

さやか「・・・??いえ、何も見えませんが」

ほむら「本物なのかしら」

さやか「はぁ?」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:14:03.78 ID:V7EyQybuP
ほむら(私が珍しい服を仕立てさせていることは
すでに城内にも知られている。)

ほむら(仮にこの商人が私を騙そうとしているのだとしても
いまさら、契約を反故にして、
私が騙されかけていたなんてことが知れわたったら、恥をかくわね)

ほむら(この際、この服がインチキかどうかはどうでも良いこと。
ならばこの状況を利用できないかしら)


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:16:03.72 ID:V7EyQybuP

ほむら「この服だけど、色合いはいいけどデザインが気に入らないわ」

商人「は、はぁ!?」

ほむら「それによく見たら、糸のほつれがあるわ。
これでは報酬は払えないわね」

商人「え、ええ?」

ほむら「ここよ、ここ! まさか見えないの?」

王様は商人にかまかけをして、商人の様子をよく観察しました。
商人は思いもよらないことを聞かれてしどろもどろです。

ほむら(……やはりインチキか)


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:17:37.58 ID:V7EyQybuP

ほむら「まあ、請求してきた全額は払えないけど
1割でなら買ってあげてもいいわ、どう?」

商人「は、はい! それで問題ありません」

商人は自分のたくらみが看破されていることを悟ったのでしょうか、
逃げるように出ていきました。


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:19:03.76 ID:V7EyQybuP

ほむら(私が「バカには見えない服」を買ったことはすでに、城内に知れ渡っている)

ほむら(ならば、これを機に家来たちを試してみるのも面白いわね)

ほむら(バカと思われたくなくて、
私の機嫌を取るように服をほめたたえるのなら、今後も私に素直に従い続ける忠誠はあるということ)

ほむら(逆に正直にやんわりと、
私が服を着ていないことを、ただすようならばそれはそれで
私に恐縮せずに忠言をする得難い家来だということ)

ほむら(その場では、私の機嫌を取って、私が騙されるような愚かな王だと思い込み、
謀反をおこすような者がいるならば、この機会に排除すればいい)

ほむら(……それに他にも使い道があるわね)


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:20:07.84 ID:V7EyQybuP
さっそく、王様は商人から買った服を着て
(実際は「下着姿」ですが)
衛兵を連れて城内を歩き回り、感想を聞いて回りました。

ほむら(面白くないわね)

ほむら(家来の男たちは、みんなデレデレした顔で「大変綺麗です!」と褒めちぎるばかり)

ほむら(女官たちも顔を真っ赤にして、褒めるようなことしか言わないし。
……そんなにみんな馬鹿だと思われたくないのかしら)

ほむら(まあ、いいわ。本来の目的を果たすとしましょう)


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:21:09.28 ID:V7EyQybuP

王様はある侍女の所を訪れました。

ほむら「バカには見えないという新しい服を作ってもらったのだけれど、どうかしら?」

まどか「え! ええ、えとえと、とても似合っている、と思います。」

ほむら「本当に? 素敵な服だと思う?」

まどか「は、はい! と、とても」

ほむら「そう、そんなに褒めてくれるの。
……それじゃあ、あなたに貸してあげるわ。試しにこの場で着てみてくれないかしら」

まどか「え、ええ!?」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:22:03.99 ID:V7EyQybuP

その侍女は、王様のお気に入りの侍女でした。

淡い髪を両サイドで結んだ少女で、
愛らしい顔立ちに花びらのような唇、抜けるような白い肌。

大人になろうとしている胸の二つのふくらみは、大きすぎず、
それでいてほどよく女らしさを主張しています。

短いスカートから伸びた脚は少女ならではのプロポーションをさらに際立たせ、
時おり無防備に前にかがんだりした時に、きわどいところまで見えてしまうのもまた良しです。

衛兵たちの間でもひそかに大人気です。

ほむら「どうしたの?あなた自分で素敵な服だって言ってくれたじゃない?

……私はあなたにも試しに着てみてほしいと言っているの。
それともさっきのは嘘だったのかしら?」


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:23:23.76 ID:V7EyQybuP

衛兵たちは王様の発想に感服するばかりでした。

衛兵1(さすが王様! ここまでの行動はこの展開に持っていくための布石だったのか!)

衛兵2(王様ばかりか、あの娘の下着姿を拝める日がこようとは! 王様最高っす!)

衛兵3(一生ついていくぜ! 王様!)

衛兵4(この発想を応用すれば、
城下の教会の、可愛くてお姉さん肌の、赤毛のシスターのあの娘も!
酒場で働いている黄色い巻き毛で、巨 なあのウエイトレスさんも!
合法的に脱がせられるのでは!)


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:25:03.79 ID:V7EyQybuP

侍女は顔を赤らめて、恥ずかしそうにしていましたが、やがて諦めたようにため息をつきました。

まどか「は、はい。それじゃ着てみます」

侍女は前側のエプロンをはずして、床に置くと
羞恥心をこらえるように、きゅっと唇をかみしめながらブラウスのボタンに手をかけました。

王様とその場にいた男どもは心の中でガッツポーズをとりました。


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:27:03.82 ID:V7EyQybuP

しかし、王様は衛兵たちを見やっていいました。

ほむら「ちょっと、女の子が着替えるところなんだから、貴方たちは出ていきなさい」

衛兵たち((((ええ~っ))))

衛兵たちは内心ブーイングの嵐です。
どうやら王様は自分の下着姿が臣下に見られる分には特に気にしませんが
お気に入りの侍女の下着姿が他者に見られるのは気に入らない様子です。

ほむら「私は着替えを手伝ってあげるから」

まどか「・・・は、はい」

というか、下着姿の王様と侍女が、密室で二人っきりになって
一体どのような行為に及ぶつもりでしょうか。

着替えの手伝いにかこつけて、服を脱がせるどさくさにまぎれ
お気に入りの侍女にあんなことやこんなことをするつもりかもしれません。

けしからん、全くもってけしからん王様です。
ここまで自分の欲望に忠実な人間が権力を握っていてよいものでしょうか。


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:28:03.86 ID:V7EyQybuP

しかしその時、通りすがりに窓の外から白い獣が入ってきました。
耳から毛をはやした猫のような生き物です。

QB「この国の王様は下着姿で歩くのかい? 何で何も着てないんだい?」

さやか「やっぱりそうだよねえ。
あたしには見えないのかと思ったけど、やっぱり着てないよねえ」

一緒についてきていた家来も、うなずきました。

まどか「そ、そうだよね! 着てないよ、そのとおりだよ!」

侍女もその流れに乗りました。

ほむら「うっ」

その場の空気がきまずくなりました。

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:29:39.42 ID:V7EyQybuP

ほむら「………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………
…………そ、そのとおりね、私何も着ていないわ」

雰囲気に負けて、王様は折れました。

ほむら「じ、実はあなたたちが雰囲気に流されずに正直に答えるか試してみたの」

まどか「え、その割には、私の服を脱がせようと本気で迫っていたような」

ほむら「おっと! 急用を思い出したわ。私、執務室に戻らないと!」

王様は逃げるように去っていきました。


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:31:04.31 ID:V7EyQybuP

それからしばらくして

「白くて耳毛をはやした猫のような獣を見かけたら八つ裂きにするように!」
という王様からのお触れが出ました。

QB「まったく、正直に言っただけなのに、何でこんな目に合わされるんだい」

獣はぼやきながら逃げていきました。
王様はそれからしばらくの間は、侍女にちょっかいを出すのを控えたのでした。

めでたしめでたし。


23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:32:02.93 ID:V7EyQybuP

さやか「つぎのお話は「人魚姫」だよ!」

まどか「さやかちゃん、がんばって!」


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:34:02.19 ID:V7EyQybuP

むかしむかし、海の底に人魚たちが暮らす王国があり、そこに人魚のお姫様がおりました。

ある日のこと、人魚姫は海の上の世界が見たくなって
友達の人魚と一緒に海面まで上って行きました。

さやか「まどか!今夜は月がきれいなんだって!一緒に見に行こうよ」

まどか「うん!」


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:35:03.67 ID:V7EyQybuP

人魚姫が海面に顔を出すと綺麗な満月があたりを照らしておりました。

するとどこからか美しい音楽が聞こえます。
みると夜の海に大きな帆船が浮かび、デッキに一人の男の子が立っていて、音楽を奏でているのでした。

さやか「綺麗な音……」

まどか「あれはバイオリンっていう楽器らしいよ」

さやか「へえ、人間はあんなものを作るんだ……。
それに……」

さやか(あの弾いている子かっこいいな)

人魚姫はバイオリンを弾いている男の子が一目で好きになりました。


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:36:27.44 ID:V7EyQybuP

まどか「あの男の子、たぶんこの先の陸にある人間の国の王子様だよ」

まどか「船乗りが話しているの聞いたんだ。
今日、王子様が船上で誕生日のパーティーをするって」

さやか「そうなんだ」

そのときにわかに、満月に雲がかかり、嵐がふきあれ、穏やかだった海が急に荒れ始めました。

王子様が乗っている船も波にあおられ、激しく揺れ始めました。


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:38:02.53 ID:V7EyQybuP

水夫たちが、船を立て直そうとあわただしく動く中、ひときわ大きな波が横から船を襲います。

ザブン!

恭介「うわあ!」

王子様は船から投げ出されてしましました。

さやか「大変!」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:39:06.78 ID:V7EyQybuP

波にのまれ、沈んでいく王子様をみて、人魚姫は急いで助けようと海の中にもぐりました。

さやか(待ってて! 今あたしが助けてあげる!)

恭介(……)

王子様の体を抱えて必死に人魚姫は泳ぎました。

さやか(ここまでくれば、大丈夫かな)

人魚姫は一番近くの港町の海岸まで泳ぎ着き、王子様を浜辺に横たえました。

さやか(よかった!息してる!……あれ?)

王子様は意識がないままにバイオリンケースを抱えておりました。


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:40:03.62 ID:V7EyQybuP

さやか(溺れそうだったのに……、よっぽど大事なんだね)

さやか(あれ……、人間の足音?誰かくる!)

人魚は人に見られると、捕まったり見世物にされることがあるので
人に見られないようにする掟があったのです。

人魚姫は大急ぎで海にもぐりました。

人魚姫が去った後、一人の女の子が王子様に近づいてきました。

仁美「…………こんなところに人が倒れていますわ。溺れかけたのかしら? 誰か!?誰かお医者様を!」


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:42:03.86 ID:V7EyQybuP

まどか「さやかちゃん!大丈夫?」

さやか「うん、なんとかね、今日はもう帰ろう」

まどか「心配しちゃったよ。あの王子様は?」

さやか「あたしが近くの海の浜辺まで連れて行ったから、たぶん大丈夫だと思う」

まどか「そう、よかったね!」

さやか「うん!(……また、会いたいな)」


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:44:02.11 ID:V7EyQybuP

人魚姫はそれから王子様のことが気になって仕方がありません。

さやか「まどか、あたしあの王子様にもう一度会いに行こうと思うの」

まどか「ええ? どうやって?」

さやか「私たち人魚の国からすぐ近くに、どんな願いでもかなえてくれる魔法使いがいるんだって。

その魔法使いに頼んで、人間にしてもらおうと思うの」

まどか「そんなこと本当にできるのかな?」


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:46:02.27 ID:V7EyQybuP
人魚姫たちは魔法使いの家をたずねました。
魔法使いは耳から毛をはやした不思議な獣の姿をしておりました。

QB「話はよくわかったよ。
この薬を飲んで陸に上がれば、君たちの下半身は人間と同じ二本の脚になる。

まあ、海水につかった時だけ元に戻ってしまうから気を付けてね。
また陸に上がれば、人間の足になるけど」

さやか「本当に!?」

QB「ただし、ただでは渡せないよ」

さやか「ま、まさか、あたしの美しい声を引き換えに……」

QB「いらないよ。僕の声の方が可愛いし」

さやか(ムカッ)

QB「引き換えにするのは魂さ。」

まどか「魂?」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:48:02.69 ID:V7EyQybuP

QB「といっても君たちの魂とは限らない。
君たちはこれから、王子様のところに行って自分の思いを伝えるつもりなんだろ?

その行為によって、不幸になり絶望した者の魂をもらうのさ」

さやか「あたしが王子様に気持ちを伝えて、誰が不幸になるっていうの?」

QB「世の中の幸福の総量は決まっているんだよ。
勝つ人間がいれば必ず敗者がいる。

贅沢な食事をする金持ちの人間がいれば、その陰には食うものにも困る無数の貧しい人間がいる。

幸せそうな恋人同士がいれば、その裏には孤独に苦しむ多くの人間がいるのさ。」

QB「僕が君たちを人間にして、
人魚姫、君が思いを成就させたなら、その陰で絶望する人間がいるはずさ。

もし成就できないことがあれば、絶望するのは誰なのか?わかるよね?」

まどか「…………」

さやか「馬鹿馬鹿しい。あたしは誰も不幸にしないし、自分も幸せになるもん!
…………いいよ、薬をちょうだい。」

QB「やれやれ、信じないならそれでもいいけどね。はい二人分」

人魚姫たちは薬をもらって、王子様を送り届けた港町へ向かいました。

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:50:02.38 ID:V7EyQybuP

人魚姫たちは港町の浜辺まで泳いだ後、薬を飲んで人間になりました。
そして港町を歩いて王子様を探すことにしました。

さやか「まどか、あんたまで付き合うことなかったのに」

まどか「だってさやかちゃんだけじゃ心配だよ。
……それに友達の初恋を応援したいしね」

さやか「……ありがとう。でもどこを探せばいいのかな。
たぶんあの後、誰かが保護したと思うんだけど」

そのとき後ろの方で騒ぎが起こりました。

仁美「誰か! 誰か捕まえて! ドロボウ!」


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:52:02.83 ID:V7EyQybuP

そして、人魚姫たちの方に向かって、荷物を抱えたガラの悪い男が走ってきたのです。

さやか「ムッ、ひったくりか! 悪は許さん!
さやかちゃんパーンチ!!」

人魚姫の水の抵抗で鍛えられた両腕から繰り出される正拳突きが、泥棒の顔面をとらえました。

泥棒「ひでぶっ」

泥棒は人魚姫の一撃で昏倒しました。

さやか「あれ、こいつが持っているのは……バイオリンケース?
どこかでみたような?」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:54:03.56 ID:V7EyQybuP

人込みをかき分けて、先ほどの悲鳴の主があらわれました。
上品な雰囲気の貴族の娘です。

仁美「ああ!ありがとうございます。助かりましたわ。

一部いたんでいたところを楽器職人さんに修理してもらって、受け取って店を出たところを狙われましたの。

何とお礼を言ってよいか」

さやか「このバイオリン……、私と同じくらいの年の男の子の、
いや、この国の王子様のものじゃないですか?」

仁美「ええ?どうしてそれを?」

さやか「あ、いやえと」

まどか「私たち以前王子様がバイオリンを弾いているのを見たことがあって
ぜひもう一度聞きたいなぁって探しに来たんです」

仁美「まあ、王子様のファンでしたのね。
実は王子様は今、わたくしの家にいるんですの。もしよろしければ寄って行かれます?」


47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:56:04.09 ID:V7EyQybuP

仁美「申し遅れました。
わたくしこの港町を拝領されております一家の娘で仁美と申します」

さやか「あ、さやかです」

まどか「まどかです」

仁美「王子様のところに、今案内しますわね」

人魚姫たちは貴族のお屋敷に通されました。

さやか「豪華な家だなぁ」

まどか「すごい家柄なんだね」

仁美「こちらですわ」

仁美は屋敷の一室に案内しました。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:57:50.88 ID:V7EyQybuP

恭介「やあ、仁美。その人たちはお友達?」

仁美「さっき町でバイオリンを盗まれそうになったところを助けていたんですの」

恭介「なんだって?それは僕からもお礼を言わせてもらうよ。
本当にありがとう」

さやか「い、いえいえ別に……(うわあ王子様だぁ)」

まどか(?? どうして仁美ちゃんの家にいるんだろ?)

さやか「あの、あたし、さやかといいます。
こっちはまどか。
あの私たち前に王子様のバイオリンを聞いたことがあって、とっても素敵だなって思ったんです」

恭介「本当かい? うれしいな」

さやか「それで、……もし良かったら、あたしたちと友達になってください!」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 21:59:16.51 ID:V7EyQybuP
恭介「いいよ。僕でよかったら。
いまちょっと、病み上がりだから、あまり遠くに遊びに行ったりはできないけど」

仁美「まあ、それでは明日にでも、みんなで町を散歩しましょうか?

…………さやかさんたちはこの街に行くあてはあるんですの?」

さやか「あ、いや特にはないけど」

仁美「では、わたくしの家に泊まっていってください。部屋もたくさんありますし!
ふふ、同じ年頃の女友達が泊まるなんて初めてですわ」

仁美は嬉しそうに笑いました。

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:01:03.40 ID:V7EyQybuP

それから4人は、数日の間、楽しい時間を過ごしました。

4人で港町のカフェで話したり、公園を散歩したり、市場の屋台をまわったりして騒ぎまわりました。

……けれど人魚姫はふと気づきました。

恭介「仁美、あっちを見に行こうか。」

仁美「いけません。病み上がりなんですから急に立ち上がったりしては。
わたくしが手を貸しますわ」

さやか(あれ?)

王子様と仁美はいつも寄り添うようにそばにいて、
仁美は王子様を自然と気遣い、王子様もそれを受け入れています。

何だか二人はとても親しげに見えました。


52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:03:02.29 ID:V7EyQybuP
ある時、まどかが二人に尋ねました。

まどか「あの王子様と仁美ちゃんはどうして知り合ったの?」

恭介「この間、僕の誕生日のパーティーが船上で行われたんだけど、
一人でデッキに立っていたときに、急に嵐になって、海に投げ出されてしまったんだ。

それでこの港町の浜辺に流れ着いたところを仁美が介抱してくれたんだ。
だから仁美は僕の命の恩人なんだよ」

仁美「まあ、王子様ったら! わたくし当然のことをしたまでですわ」

恭介「いや本当に感謝しているよ。
まあ投げ出されたところから、この港町までも結構距離があったんだけど
運よく流れ着いたみたいだ」

仁美「きっと運命の女神様が、私たちをめぐり合わせてくれたのかもしれませんね!」

まどか「…………そうなんだ」

まどかは人魚姫をそっとみやりました。
人魚姫は黙ってうつむくばかりでした。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:04:53.74 ID:V7EyQybuP

その夜、屋敷のテラスで人魚姫は一人物思いにふけっていました。

まどか「さやかちゃん」

さやか「……まどか」

まどか「王子様と仁美ちゃん、仲良いよね」

さやか「そうね」

まどか「このままじゃ、駄目だよ!
さやかちゃんの気持ちを伝えようよ!」

さやか「でもあの二人、すごくお似合いだもん」

まどか「さやかちゃん! でも何のためにここまで来たの?」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:06:07.71 ID:V7EyQybuP

人魚姫は「王子様に会いたい、会って気持ちを伝えればどうにかなるはず」と思い込んで人魚の国を飛び出してきましたが、
いざ人間の国に来てから、話がそう簡単ではないことに気が付いたのでした。

さやか(もしも、仁美が王子様に地位や財産目的で近づく、傲慢で嫌な女の子だったら
あたしだって、そんな女より自分のことを向いてほしいと必死になったかもしれない。)

さやか(けれど、仁美は、優しいし上品だし、
深い事情も聞かずに「助けてもらったから」「友達だから」って、出会って間もないあたしたちを家に泊めてくれる良い娘だもん。家柄も申し分なくて、お金持ちだもん。)

さやか(だけど、あたしは、人間になって陸にいる今では、
仁美の恩人で最近友達になったっていうだけで、遠い国から旅行に来た身元のよくわからないただの女だ。
王子様だって仁美の方が良いんじゃ……)

さやか「……駄目、どうしても気持ちを伝える勇気が出ないよ。」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:07:57.91 ID:V7EyQybuP

まどか「それじゃあ、私が手伝うよ! 王子様に言ってあげるよ。

本当は海に落ちたときに助けて浜辺まで運んであげたのはさやかちゃんだって!
そしたら、王子様だってきっとさやかちゃんのこと……」

さやか「やめて!」

まどか「さやかちゃん?」

さやか「まどか、そりゃあ、あたしだって本当は、助けたのはあたしだって伝えたいよ。
わかってほしいよ?」

まどか「……」

さやか「でも、王子様は助けられたことさえ覚えてないの。
自分が助けられた覚えのないことを、人に伝えられて、感謝してあげてなんて言われたって……
そりゃ、口では感謝するかもしれないけど、内心どう思うか……」

まどか「そっか……恩着せがましく思われるかも……」

さやか「それにあたしは、見返りを求めて助けたんじゃないの。ただ王子様を助けたかっただけなの」

まどか「そうだよね、それにどうやって助けたのか詳しく聞かれたら
私たちが人魚だって話さなきゃいけなくなるもんね……」

その時、誰かがテラスに入ってきました。


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:09:48.96 ID:V7EyQybuP
人魚姫たちはとっさにテラスの柱に隠れました。

恭介「仁美、話ってなんだい」

仁美「お父様から今日聞かされたんですけど、王子様と私で、その、
婚約しないかって」

恭介「え?」

仁美「王城に、海に落ちたあなたを保護して、うちに逗留していただいてることを書状で伝えたんですけど。

その際に、私があなたを助けた経緯や、その後、仲良く町で過ごしていることも伝えたみたいで。

それならば、婚約を結んでみてはどうかという話が、王城から申し入れられたらしいのですわ。
父としては王都に人脈ができるとか政治的な理由もあるみたいですが
一応私たちの気持ちを優先して決めてくださるみたいなんです。」

恭介「……」

仁美「私はその、王子様のことお慕いしておりますの。
だから、王子様が望むなら私は……」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:11:08.21 ID:V7EyQybuP

恭介「僕もだよ」

仁美「王子様……」

恭介「その、今の話は驚いたけど、
でも君がどんなにすばらしい女の子かってことは、この数週間でよくわかったからね。
僕でよければ君とこの先も人生を共にしたいんだ」

仁美「……嬉しい。

婚約パーティーにはさやかさんたちも呼びましょう!
きっと喜んでお祝いしてくださいますわ!」

王子様は黙ってうなずくと、そっと仁美に口づけしました。

柱の陰で人魚姫は座り込んでうつむいていました。

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:13:02.93 ID:V7EyQybuP

数日後、船上で婚約パーティーが開かれました。
豪華な料理が用意され、たくさんの招待客が祝いに駆けつけました。

王子様と豪華なドレスに身を包んで、幸せそうに王子の隣に立つ仁美を
人魚姫は黙って見つめていました。

さやか「……」

まどか(……さやかちゃん)

パーティーが中盤に差し掛かり、
二人の互いの気持ちを招待客の前で誓う演目が始まろうとしておりました。

王子と仁美はデッキの上に設けられたステージに出てきました。

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:14:10.03 ID:V7EyQybuP

しかし、その時、穏やかだった空に暗雲が立ち込め、嵐が吹き荒れはじめたのです。

ゴロゴロピシャン!と雷が落ちました。

招待客たちはおびえ、船員たちは船を港に戻すべく動き始めましたが、その直後、大きな波が船を揺るがしました。

恭介「うわあああ!」

仁美「王子様!」

高いステージにいたのが災いして、王子様は海に投げ出されてしまいました。

招待客「大変だ! 王子様が海に落ちたぞ!」

海面は荒れ狂い、とても普通の人間が助けに行ける状況ではありません。
しかし、そのとき、何の迷いもなく助けるために飛び込んだ者がおりました。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:16:02.94 ID:V7EyQybuP

まどか「さやかちゃん!?」

さやか(王子様、今助けに行くから頑張って!)

人魚姫の体は海水につかり、元の人魚に戻ってしまいました。

招待客「なんだ? あの子、人間じゃない!人魚だ!?」

人魚姫は海中深く潜って、王子様の姿を探します。

恭介(……く、苦しい)

さやか(王子様! 私が今、助けてあげる!)

人魚姫は王子様の体を抱えて水面を目指しました。

さやか(あと少しだから頑張って!)

恭介(……? 前にもどこかで同じようなことが……)

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:18:05.84 ID:V7EyQybuP

人魚姫はどうにか、元いた港町の波止場まで王子様を運びました。
そして王子様の体を横たえました。

さやか(……あたしってホント馬鹿だなあ。

助けたって、結局王子様は仁美と結婚することになっているじゃない。
あたしのことなんか見てくれないじゃない)

さやか(でも、王子様は助かったんだしこれでよかったんだよ……ね)

恭介「……う、うん」
気を失っていた王子様の体がピクリと動きました。

さやか(目を覚ましちゃう!
王子様、人魚のあたしの姿見たら何て思うかな……。

気持ち悪い、バケモノって思うかなぁ。
……それとも人魚のくせに人間に近づいたのか、騙したなって怒るかな)

人魚姫は怖くなって、王子様から背を向けて逃げようとしました。

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:20:07.75 ID:V7EyQybuP

恭介「……さやか! 待ってくれさやか! 君は人魚だったのかい?
君が助けてくれたんだろ? 今も! 僕が海に落ちたあの誕生日の夜も!」

さやか(……気づいてくれた? 王子様が?
あたしのこと、気づいてくれた!!)

人魚姫は気持ちが高ぶり、泣き出しそうで、声も出せず、黙ってうなずきます。

恭介「ありがとう! 君が僕の命を助けてくれたんだね!
……お礼に何かしてあげられることはあるかい? どんなことでもするよ!」


67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:22:11.22 ID:V7EyQybuP

人魚姫の喉元まで、一つの願いが飛び出しそうになります。

「どうか自分のことを愛してください。ずっとそばにいて私だけを見てください」と。

しかしそれを口にすれば王子様が困ってしまうことがわからないほどに、人魚姫は子供ではありませんでした。

つっかえながら、代わりに口にしたのは別の言葉でした。

さやか「あ、あのえっと、あたしのために。
……あたしのためだけに! ……バイオリンを、一曲弾いてください」

恭介「うん、わかったよ」

婚約パーティーの会場だった船は港の近くまで戻ってきていたので
王子様は船を出してすぐにバイオリンを持ってくるように、港にいた水夫に言いました。

恭介「それじゃあ、弾くよ?」

さやかは黙ってうなずきました。

王子様は人魚姫のためだけにその場でバイオリンの演奏を始めました。
人魚姫が初めて王子様と出会った夜に弾いていた曲です。

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:24:37.33 ID:V7EyQybuP

王子様は演奏を終えました。

さやか「うわあああああん!」

曲を聞き終わった後で、人魚姫は声をあげて泣きました。
何も知らない人間からは王子様の演奏に感動して泣いたように見えたことでしょう。

さやか「えぐ、ぐすっ。
……王子様、今度は私が一曲聞かせていただいたお礼がしたいの。
もう少し近づいてしゃがんでくれますか?」

恭介「こうかい?」

人魚姫は水面から、近づいてきた王子様に抱きつきました。
そして、王子様の唇に自分の唇を重ね合わせました。
時間にすればほんの数秒の事でしたが、それは、もう二度と会えない相手の心と体に、自分の存在を刻み込もうとする少女の思いが込められた口づけでした。

さやか「さよなら」

人魚姫は王子様に背を向けて、泳いで去って行きました。

まどか「…………さやかちゃん」

まどかは人魚姫の後を追うべく、船から海に飛び込みました。
王子様は呆然と立ちつくしておりました。

仁美「さやかさん……、もしかして、王子様のことを……」

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:26:07.67 ID:V7EyQybuP

まどか「さやかちゃん! 待って! さやかちゃん」

さやか「……まどか」

まどか「さやかちゃん! うえええええん! えぐっ! ぐすっ!」

さやか「やだな、もう。何で、まどかが泣いているの、まったく」

まどか「だって! こんなのってないよ! さやかちゃんが助けたのに報われないよ!
……このままじゃさやかちゃん、魂とられちゃうよお!」

さやか「あたしは自分が不幸だとは思ってないし、絶望なんかしてないよ」

まどか「え?」

さやか「だって王子様はあたしに気付いてくれたもの。
お礼にバイオリンだって弾いてくれたもの。…………だからあたしはもう、それだけで満足だよ。

それに自分のために、こんなに涙を流してくれる友達がいるってわかったしね」

まどか「さやかちゃん」

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:28:11.19 ID:V7EyQybuP
そのとき一そうの船が近づいてきました。

仁美「さやかさーん!」

まどか「仁美ちゃん!?」

さやか「王子様も!?」

恭介「やあ、さやか。……あの」

仁美「さやかさんに伝えたいことがありますの。……私たち婚約を保留にしましたの」

さやか「そんな! どうして!」

仁美「周りには、まだ若すぎるからと説明しましたけど。……本当は違いますの。

王子様が海に落ちた時、あなたは何の迷いもなく助けるために飛び込んで見せた。
でも私は愛する人の危機に、恐ろしくて、うろたえて何もできなかった」

さやか「それは……、あたしは人魚だから水の中でも平気だけど。
……仁美は人間なんだし」

仁美「だとしても、さやかさん、あなたは思いを寄せる方が
ほかの女性と、私と結ばれることになると知りながら、それでも、助けに行った。
自分が人魚だとばれてしまうことも顧みずに」

さやか「……」

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:30:07.44 ID:V7EyQybuP

仁美「たしかに私が飛び込んでも、王子様を助けることはできませんでしたが
それでも、船員の方や水夫の方に救助をすぐにお願いすることも、命綱を出させることもできたはずです。

……でも私はうろたえて、怯えるばかりでそれさえできなかった。」

さやか「……仁美」

仁美「勘違いなさらないでください。

婚約「破棄」ではなく「保留」です。今日のところは引き分けということですわ。
そのうち正々堂々、王子様を私のものにして見せますからね」

さやか「あはは、あたしだって負けないんだから!」

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:32:07.27 ID:V7EyQybuP

仁美「それと、あなたたちは私の友達でもあるのですから、また遊びに来てくださいね」

まどか「うん!」

恭介(……こんな時一体どうすればいいんだろう。
仁美には「ご自分の気持ちがはっきりしたら、言うべき相手に気持ちを伝えてください」
って言われたけど)

さやか「王子様!」

恭介「え?」

さやか「こんど会ったときに、さっきの続きしようね!」

恭介「えっ! えっ!」

てきめんにうろたえる王子様の足を、仁美が笑顔でめいっぱい踏みつけました。

恭介「いたっ!」

さやか「あははは! それじゃあね!」

人魚姫たちは海に帰っていきました。

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:34:36.50 ID:V7EyQybuP

王子様が結局どちらと結ばれたのかは定かではありません。

けれど、どんな結果だったにせよ
お互いの気持ちにしこりの残らない形になったことでしょう。

QB「……まったく。結局誰も不幸にならなかったじゃないか。
これじゃ願いのかなえ損だよ。

……ま、たまにはこんなこともあるか」

めでたしめでたし。

81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:36:03.47 ID:V7EyQybuP

まどか「次はあたしが主役だよ!お話は「シンデレラ」!」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:39:06.30 ID:V7EyQybuP
むかしむかし、あるところにとても可愛らしくて、心やさしい娘がいました。
しかし悲しい事に、その娘のお母さんは早くになくなってしまったのです。

そこでお父さんが二度目の結婚をしたので、
娘には新しいお母さんとお姉さんたちが出来ました。
しかし新しい母親とその三人の娘たちは、前妻の娘である彼女をよく思っていませんでした。
父親が亡くなって娘が一人になってからはさらに冷たくあたり、
つらい仕事をみんな押しつけました。

ほこりまみれになって仕事をしていた娘の頭には、いつもかまどの灰が付いていました。
そのため娘は、義母から『灰をかぶっている』と言う意味のシンデレラと呼ばれておりました。

和子「シンデレラ、掃除はまだ? それが終わったら洗濯もお願いね」
マミ「ふうう、胸が大きいと肩がこるわね。ちょっと揉んでくれないかしら」
さやか「ねえ、退屈だからなんか面白いこと言って、楽しませてよ」
杏子「あと、あたしのおやつも持ってきてくれよ」

まどか「ぐすん…………みんなひどいよ」

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:41:04.05 ID:V7EyQybuP
ある日の事、お城の王子様がお嫁さん選びの舞踏会を開く事になり、シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届きました。

和子「みんな、頑張って玉の輿を狙いなさい!」

マミ「はい!」
さやか「頑張りまっす!」
杏子「んじゃあ、おまえは留守番してろよ、まどか」

まどか(・・・あたしも行きたいなぁ。でも舞踏会にいけるような服なんてないし)

お姉さんたちの仕度を手伝ったシンデレラは、義母とお姉さんたちを送り出したあとで
一人泣いていました。

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:43:03.43 ID:V7EyQybuP
そこへ魔法使いの女の子が通りかかりました。

ほむら「あなた、どうして泣いているの?」

まどか「実は……」

事情を聞いた魔法使いの女の子は、シンデレラに同情しました。

ほむら「わかったわ。それじゃあ、わたしが舞踏会へ行かせてあげる」

まどか「本当に?」

ほむら「任せてちょうだい」

魔法使いの少女はシンデレラにかぼちゃとネズミを用意させました。

ほむら「えい!」

魔法使いの少女が杖を一振りすると、そのカボチャとねずみがどんどん大きくなり、何と黄金の馬車と白馬になりました。

まどか「すごい!」

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:45:04.64 ID:V7EyQybuP
ほむら「次は衣装が必要ね。もひとつ、えい!」

魔法使いの少女が杖を一振りすると、みすぼらしい服は、たちまち輝く様な純白の美しいドレスに変わりました。

ほむら「さあ、楽しんできなさい。でも、わたしの魔法は十二時までしか続かないから、それを忘れないでね」

まどか「うん、ありがとう!」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:47:03.97 ID:V7EyQybuP
そのころお城の大広間では舞踏会が始まっていました。

QB「今日は僕のために集まってくれてありがとう!」

さやか「………………………………あれが王子」
杏子「なんつうか、人間に見えないな。耳毛をはやした獣に見える……」

マミ「まあ、かわいい! 素敵だわ!」

さやか「えっ」
杏子「えっ」

和子「さあ、何してるの?みんな頑張って王子様にアプローチよ!」

マミ「はい!」

さやか「正直気が進まないなぁ」
杏子「あたしも……」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:49:03.10 ID:V7EyQybuP

……

杏子「よお、どうだった?」

さやか「……駄目だった。何か「君の魔力はいまいちだ」とか変なこと言ってた。
悔しいような、ほっとしたような」

杏子「そうか。あたしもだ。良くわからんが、気に入られなくてよかったな」

マミ「次は私の番ね。頑張るわ!」

……

マミ「王子様。私と踊っていただけませんか?」

QB(この国を統治していくにはやはり、強い魔力があったほうがいい。
そのためにも魔法の才能がある娘を王家の血に取り入れたいんだけど…………。
この娘は、まあまあかな)

93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:51:02.18 ID:V7EyQybuP
その時、お城の大広間にシンデレラが現れました。
そのあまりの美しさに、あたりはシーンと静まりました。
それに気づいた王子様が、シンデレラの前に進み出ました。

QB「(この魔法の才能…………けた外れだ!)ぼくと、踊ってくれないかい?」

まどか「はい!」

シンデレラは、王子とダンスを踊りました。
王子様は白くて小さい獣みたいな姿なので、はたから見るとシンデレラがぬいぐるみを振り回しているようなシュールな絵面です。

さやか「よく分からないけど、あの娘、王子様に気に入られたみたいね」

杏子「あれ、何か……まどかに似ているような? あれまどかじゃねえのか?」

マミ「いいなぁ……あの娘、うらやましいわ」

さやか「えっ」
杏子「えっ」

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:53:05.21 ID:V7EyQybuP
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎて、十二時の鐘が鳴り始めました。

まどか「あっ、いけない。魔法が解けちゃう…………おやすみなさい、王子さま」
 
QB「あっ、待ってくれ。僕と婚約してこの国のお姫様になってよ!」

王子様はシンデレラを行かせるまいと飛びつきますが、勢い余ってドレスの胸元にもぐりこんでしまいました。

まどか「あはははは! く、くすぐったい。王子様、やめ、て!」

シンデレラは王子様をドレスの胸元から引っ張り出して、放りました。
そして待っていた馬車に飛び乗ると、急いで家へ帰りました。
 
シンデレラの後を追ってきた王子様は、自分の頭に引っ掛かっていたブラジャーを見せて家来たちの前で宣言しました。

QB「ぼくは、このブラジャーの持ち主の娘と結婚するよ!」

97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:55:03.58 ID:V7EyQybuP
次の日から、お城の使いが国中を駆け回り、手がかりのブラジャーが胸にぴったり合う娘を探しました。
お城の使いは、シンデレラの家にもやって来ました。

和子「このブラジャーがぴったり合えば、あなたたちは王子さまのお嫁さんよ!頑張って!」

シンデレラの義母は用意された試着室に娘たちを押し込みます。

さやか「……そう言われても。どれどれ? きつっ!こんなの無理だよ!」

杏子「うっ、あたしも無理だ。……これ、よほどの貧 の持ち主だよ。もしかしてこの国一番の貧 じゃねえのか?」

まどか(……そんなことないもん!昨日会った魔法使いの娘なんてもっと小さかったもん!)

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:56:54.32 ID:V7EyQybuP

マミ「あたしが試してみるわ!」

さやか「えっ」
杏子「えっ」

マミ「うぐぐぐ……やっぱり無理みたいね、残念だわ」

さやか(そりゃそうだ)
杏子(あたしらできつい物がマミに入るわけないだろ……)

さやか(というか、このブラの大きさといい…………)
杏子(昨日の娘はやっぱりまどかだよなぁ)

お城の使い「残念ながら、この家には昨日の娘はいないようだな。
……おや?」

お城の使いは試着室に入っていなかったシンデレラを見とがめます。

お城の使い「君もしかして昨日の娘なんじゃ……ちょっと試しにこのブラジャーを着けてもらっても」

まどか「違イマス! 私、昨日舞踏会になんて行っていませんから!」(キッパリ)

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 22:58:28.83 ID:V7EyQybuP
シンデレラは舞踏会に行ってみたかっただけで、別に王子様が好きだったわけではないですし、
何より国一番の貧 扱いされるのは嫌だったので、知らんぷりしました。

まどか「それより、この家にはもうひとり女の人がいますから」

シンデレラは義母を指さしました。

和子「え……私?」

さやか(そういえば、確かに貧 だ……)

杏子(いやでも、それでもあの大きさは無理なんじゃ。
いや待てよ、さっきマミのやつが無理やり着ようとしたから布が少し伸びきっている。もしかして……)

和子「うそっ、ぴったり」

お城の使い「やった! 王子様の花嫁が見つかったぞ!」

102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 23:00:02.75 ID:V7EyQybuP

家来「王子様!見つかりました!昨日の娘が!」

QB「何だって!本当かい!」

王子様は連れてこられたベールをかぶった女性に近づいて、熱烈にプロポーズです。

QB「この国と僕には、君が必要なんだ! ぜひ僕と結婚して一緒にこの国を守り、幸せに暮らしていこう!」

和子「はい! 喜んで!」

QB「……あれっ」

和子「嬉しいわ、夫に先立たれてずっと寂しかったの。ちょっと外見が人間離れしているけれど、でもこんなやさしい言葉をかけてくれる王子様ならきっとうまくやっていけるわ。
……これから末永くよろしくお願いします」

QB(……なんというか、お店で料理を注文したら予想したのと全然違うモノが出てきたような気分だ)

和子「うええええん!(感涙) 私、頑張っていい奥さんになりますね。あ・な・た!」

QB(……でも今さら引っ込みがつかない)

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/15(日) 23:02:02.47 ID:V7EyQybuP
さやか「ねえ、本当は昨日舞踏会で王子様に気に入られたのはまどかなんでしょう?」

杏子「どうやったのかしらないけど、よく入り込めたな」

まどか「(ギクッ)えと、その、あはは」

マミ「そうだったの? それなのに、独り身だったうちのお母さんに王子様を譲ってあげるなんて!
なんて優しいの!」

杏子「まあ、おかげで、あたしたちもいい暮らしができるようになるし、どうとは言わねえよ」

さやか「何だ、うちの母さんに気を遣ってくれたんだ。良いところあるじゃない。
……今まで冷たくしていてごめんね、これからは仲良くしましょう」

まどか(……本当は少し違うけど、みんなと上手くやれそうだし、まあいいか)

シンデレラの家はそれからは王族の親族ということで、暮らしも豊かになり、
またシンデレラの優しさに心を打たれ、改心したお姉さんたちとも、仲良く幸せに暮らしました。

めでたしめでたし。


引用元: まどか「まどか☆マギカで名作童話!」